【9】植物によるマイクロバイオーム選択
【論文タイトル】Successive passaging of a plant-associated microbiome reveals robust habitat and host genotype-dependent selection
【著者】Morella et. al.
【年】January 2020
【ジャーナル】PNAS
本論文は、植物とそれに関わる微生物についてです。
一部の微生物は植物と共生することによって、栄養を交換したり、環境ストレスから身を守ったりします。
しかし、共生関係にある微生物が葉のマイクロバイオームの中で強く選択されるのか、
またその選択は安定しているのかは未解明でした。
そこで、著者らは microbiome passaging アプローチによって、
トマトの葉のマイクロバイオームに植物宿主による選択がかかるのか調査しました。
具体的にどうしたかと言うと、
様々な成熟トマトの土壌から得たさまざまな菌液(マイクロバイオーム)を
30のトマト(5遺伝子型, n=6)にスプレーしました。
その後、2週間齢のトマトの葉から得た菌液を週1回トマトにスプレーしました。
この作業を4回行い、各週のサンプルをPassage 1 (P1), P2, P3, P4としました。
そして、P1 ~ P4 のサンプルに対して、16S rRNA アンプリコン解析を行い、各サンプルにおけるマイクロバイオームを調べました。
その結果、初期のPassageであるほど植物の遺伝子型が葉圏マイクロバイオームに与える影響が大きく、後期であるほど小さかったそうです。
時期によって、植物による葉の微生物に対するコントロールが違うとしたらおもしろいですね。
【引用】
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【8】ランダムさが生み出すパターン
【論文タイトル】Stochastic pulsing of gene expression enables the generation of spatial patterns in Bacillus subtilis biofilms
【著者】Nadezhdin et. al.
【年】February 2020
【ジャーナル】Nature Communications
今回の論文はむずかしくて、うまくまとめるのに2日かかってしまいました。
でも、非常におもしろいです!読み甲斐ばつぐんです!
さっそく見ていきましょう。
*
本論文は、
遺伝子発現の「ランダム」な制御 (stochastic pulsing) が、
多細胞システムにおいて必要な「パターン」を生み出す
ということを明らかにしました。
単細胞の細菌がなにかの表面上で増殖した際、層状のバイオフィルムを形成します。
バイオフィルムを形成することで、細菌は主に環境ストレスから身を守ります。
この多細胞から成るバイオフィルムは、ときに多細胞生物のように振る舞います。
たとえば、バイオフィルムのなかには生命活動を行う細胞以外にも、胞子化した細胞が存在します。
この胞子は、バイオフィルムの先端部に集まることが多く、
多細胞集団の中でどのように発現調節がなされているのかが疑問でした。
一般的なストレス応答性シグマ因子であるシグマBは細胞のストレスに応答する一方で、胞子の形成を抑制する働きがあります。
著者らは、「バイオフィルム内で、細胞分化の調節がどのようになされているのか」を調査するために、シグマBの発現変化をタイムラプス顕微鏡で観察しました。
その結果、シグマBは時間ごとにランダムに発現していることが明らかとなりました。
ランダムな遺伝子の発現によって、バイオフィルムのなかで胞子形成とストレス応答型の2つの異なる形質を示す細胞がパターン分化したそうです。
次に、このパターンを調査するために、シグマBのランダムな発現を、数理モデルをつくってシミュレーションしました。
すると、ランダムなシグマBの発現はバイオフィルムの先端で胞子形成を活性化させることが分かりました。
また、シグマBの発現を上昇させると、胞子形成のピークがバイオフィルムの先端部から中心部に遷移しました。
実際に、シグマBの発現が上昇するよう変異させた株では、胞子形成がバイオフィルムの中心部に移動しました。
これらの結果により、遺伝子のランダムな発現はバイオフィルム内におけるパターン化に重要であることが明らかとなりました。
ランダムさが、パターンを生み出すなんておもしろいですね!
気になったので調べてみると、
本論文はケンブリッジ大学による研究で、共同研究先は Microsoft Research だそうです。
うーん、さすがです。
【引用】
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【7】腸内細菌にとって繊毛の役割とは?
【論文タイトル】Bridging Bacteria and the Gut: Functional Aspects of Type IV Pili
【著者】Ligthart et. al.
【年】March 2020
【ジャーナル】Trends in Microbiology
今回は腸内細菌における「繊毛 (Type IV pili)」についてのレビュー論文を紹介します!
微生物にとって、繊毛は環境と相互作用するためのとても重要なアイテムです。
とくに環境変化の大きい腸内においては、繊毛の役割が重要だそうです。
その機能としては、
- 運動 (twitching motility)
- 付着
- バイオフィルム形成
- DNA 取込み
- 分泌
などが挙げられます。
それぞれ詳しく見ていくと・・・
- 運動性があることで、微生物が新たなニッチに生息するために役立ちます。
- 付着は、微生物が環境中のえさを見つけることに役立ちます。また、病原菌などにとっては、宿主への付着を感知して転写応答します。
- DNAの取り込みは、遺伝的多様性を上げたり、耐性遺伝子を取り込み環境に適応したりするのに役立ちます。この現象は「接合 (conjugation)」、「形質導入 (transduction)」、「自然形質転換 (natural transformation)」と呼ばれたりします。
- 微生物は繊毛を通してタンパク質を分泌したりします。Type II secretion system (T2SS) が有名ですね。分泌する物質の例としては、付着物質、プロテアーゼ、毒素、短鎖脂肪酸などのタンパク質が挙げられますが、どれも微生物が外部環境に対してアプローチするために大切なものですね。
このように、繊毛には微生物にとって重要な機能がたくさんあるんですね。
実際に、腸内細菌のうち約30 ~ 45 % もの微生物が繊毛を有するそうです!
本論文では、他にも繊毛の構造が紹介されていたので気になる方はご一読ください。
↓
【引用】
https://www.cell.com/trends/microbiology/fulltext/S0966-842X(20)30027-5
【6】新型コロナウイルスはどこから来たのか?
【論文タイトル】Full-genome evolutionary analysis of the novel corona virus (2019-nCoV) rejects the hypothesis of emergence as a result of a recent recombination event
【著者】Paraskevis et. al.
【年】April 2020 (Available online 29 January 2020)
【ジャーナル】Infection, Genetics and Evolution
今回は、今世間を騒がせている新型コロナウイルスについてです!
コロナウイルスの注目度はやはり高いようで、PubMedで「2019-nCoV」と検索すると254件もヒットします。
その中でも今回紹介したいのは、
新型コロナウイルスは一体どこからきたのか?
という謎にせまる論文です!
本論文では、新型コロナウイルスの全ゲノム解析を行い、最尤法とベイズ法を用いて系統分類しました。
その結果、新型コロナはコウモリのコロナウイルスであるBatCoV RaTG13と96.3%という高い相同性があったそうです。
しかし、本論文では新型コロナとコウモリコロナは同一分岐上に分類されず、別のクラスターを形成しました。
また、新型コロナはヒトウイルスとコウモリコロナの相同組換えによってできたという世間の噂は完全に否定されました。
中国人がコウモリを食べるから、というのはデマですね。
よって、新型コロナの起源はコウモリコロナである可能性が高い一方で、分類上は別のものであると結論づけられるようです。
この結果は、つい先日サブミットされたGaoらの論文 (2020) によってもサポートされていました。
新型コロナウイルスについては、嘘の情報が多く流れているような気がするので、公的な機関から出ているものをチェックするように意識したいですね。
本ブログでも、あと1本くらいコロナウイルス関連の論文を紹介したいと思っています。
コロナに限らず、皆さん風邪にはお気をつけてくださいね!
【5】細菌のコンピテンシーを喪失させる意外な仕組みとその化合物!
【論文タイトル】Proton Motive Force Disruptors Block Bacterial Competence and Horizontal Gene Transfer
【著者】Domenech et. al.
【年】March 2020
【ジャーナル】Cell Host & Microbe
今回は細菌の「コンピテンシー」に関する論文です。
細胞外からDNAを能動的に取り込んで形質転換する細菌は「natural competence」あると言います。
細菌がそのようなことを行う理由としては、前回の論文紹介記事をぜひご一読ください。
Natural competenceのある細菌は、自然形質転換などによって薬剤耐性を得ます。
肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae) も同様で、薬に対する耐性遺伝子を細胞外から取り込んで、薬剤耐性菌へと進化してしまう場合があります。
本論文では、プロトン勾配形成を阻害する化合物は、細菌のコンピテンシーを喪失させることを証明しました。
プロトン勾配と natural competence が一体どう関わっているんでしょうね。
実験量が多く、読み応え抜群でした。
まず、著者らはnatural competenceを阻害する化合物 (COM-blockers) を同定するために1380もの化合物をスクリーニングします。
Natural competence を測るレポーターとしては、ssbB プロモーターを利用しています。
細胞内にssbB付き外来DNA が取り込まれたら、ルシフェラーゼ活性によって光を発します。
細胞の増殖に影響を与えず、細菌が光を発さなくした化合物は細菌のnatural competence を喪失させたCOM-blockersということです。
こうして、1380のうち46の化合物がCOM-blockersであることを明らかにします。
これらのCOM-blockersがnatural competenceを行う機構のうちどこを阻害するのかを明らかにするために、
今度はCOM-blockersの存在下で、カスケード中の物質を加えnatural competenceが回復するかを調査しました。
その結果、CSPを細胞外に輸送する段階で阻害が起こっていることが分かりました。
これらの物質はプロトン勾配の形成を阻害する物質でした。
これより、細菌におけるプロトン勾配形成阻害がnatural competence をも阻害することが明らかとなりました。
(プロトン勾配の阻害や、CSP輸送の阻害を実証する実験は他にも行っています)
実際に、マウスに細菌を接種したところ、COM-blockerがある場合は遺伝子の水平伝播数が半減したようです。
Natural competenceがpHの変化に大きく影響をうけるのもこれが理由なんでしょうか。
2回連続で形質転換関連の論文でした。
【引用】
https://www.cell.com/cell-host-microbe/fulltext/S1931-3128(20)30073-1
【4】細菌における自然形質転換の役割とは?
【論文タイトル】Bacterial Transformation Buffers Environmental Fluctuations through the Reversible Integration of Mobile Genetic Elements
【著者】Carvalho et. al.
【年】March 2020
【ジャーナル】mBio
「自然形質転換」ってご存知ですか?
多くの細菌は、自然形質転換によって環境中のDNAを取り込みます。
自然形質転換の機能は細菌のコアゲノムにコードされており、細菌にとって重要な役割を担うと考えられてきました。
これまでは自然形質転換が行われる理由として
1)細菌ゲノムの遺伝的多様性を上げこと
2)細菌ゲノムからMGEs (mobile genetic elements) を追い出すこと
が挙げられてきました。
この1)と2)の相反する仮説は一体どちらが正しいのでしょうか?
本論文によると、それはどちらも正しいようです。
自然形質転換によってMGEsを取り込むのは複製コストなどの面で細菌にとって負担である一方で、MGEsに保存された耐性遺伝子などが負荷の大きい環境で役立つこともあります。
本論文で行われた計算シミュレーションによると、中程度の自然形質転換を行う細菌が最も環境への適応度が高かったようです。
自然形質転換はバランスよくMGEsを取り込んだり追い出したりすることで、細菌は自らのゲノムを長期的に守り、環境に適応していたようです。
生物ってうまくできていますね。
【引用】
【3】肥満は悪性インフルを生み出す!?
【論文タイトル】Obesity-Related Microenvironment Promotes Emergence of Virulent Influenza Virus Strains
【著者】Honce et. al.
【年】March 2020
【ジャーナル】mBio
タイトルにつられて本日はこの論文。
最近太った管理人にとっては、これは大問題!
どうやら、肥満体型だと悪いインフルが出現しやすいようです・・・
詳しく見ていきましょう。
肥満の人の方が吐く息に存在するウイルス数は通常の人より多く、肥満の人はインフルエンザで重症化する可能性が高いと言われてきました。
しかし、この直接的な原因は分かっていませんでした。
また、肥満の人と普通の人の間で肺における細菌叢が異なることも指摘されてきました。
本論文では、肥満体型と一般体型の人の間におけるインフルエンザウイルスの違いを調査しました。
肥満型マウスと普通のマウスにインフルエンザウイルスを接種し、ディープシーケンスにより比較しました。
その結果、肥満型マウスではウイルスの進化が早いことが明らかとなりました。
さらに、肥満型マウスで得られたウイルスは増幅が早く、それゆえにより悪性であることが分かりました。
ウイルスの進化が早い理由として、著者らは肥満によってI型インターフェロンによる反応が弱まっていることを原因として挙げています。
(インターフェロンとはウイルスなどの異物をやっつけるタンパク質のこと。)
現に、肥満型マウスにインターフェロンを導入すると、ウイルスの進化は遅くなりました。
今年はアメリカでインフルエンザが大流行し、死者が1万5千人にも及んでいます。
アメリカは肥満体国なので、もしかしたらほかの国よりも悪性インフルエンザが出現しやすいのかもしれないですね。
昨今、腸内細菌とがんの関連性も研究されていますし、微生物は思わぬところで私たちの生活に影響を与えています。
管理人もダイエットしようと思います。
【引用】