【12】二酸化炭素を食べる大腸菌
【論文タイトル】Conversion of Escherichia coli to Generate All Biomass Carbon from CO2
【著者】Gleizer et. al.
【年】November 2019
【ジャーナル】Cell
そういえば、少し前に話題になった論文をまだ読んでいなかったと思って、
本日はCell誌より出されたこちらの論文を読んでいこうと思います。
「大腸菌 (Escherichia coli) を完全独立栄養にした」という論文です。
この研究成果のインパクトは大きく、すでに様々なニュースやブログ記事にまとめられていました。(ツイート数はなんと2,000以上!)
実は初めてこの話を聞いたとき、私は
「それってまだされてなかったんだ」と思いました。
(私が無学なだけですが・・・)
E. coli の研究は、微生物学の中でも最も盛んな分野なので、
独立栄養のE. coliをつくろうと思った人は今までにもいたとは思います(たぶん)。
しかし、今回達成された
CO2のみから生合成を行う系をつくるというのはかなりハードルが高く、
今まで誰も成功させることができていなかったようです。
では、筆者らはどうやってそれを達成したのでしょか?
私は筆者らが特に優れていたと感じるポイントは
1. 還元力とエネルギーを考慮した、すぐれた代謝デザイン
2. adaptive laboratory evolution (ALE)
であると考えました。
還元力とエネルギーを考慮した、すぐれた代謝デザイン
これについてですが、in vivoで代謝工学を行う際には注意しなければいけない点ですね。
還元力(電子)、エネルギー (ATP)、炭素源
を獲得できる代謝系でなければ、生物は生きることができません。
筆者らの系では、
ギ酸を電子供与体として、好気呼吸鎖でエネルギー獲得を行い、カルビンベンソン回路で炭素固定を行い生合成する
という代謝系を構築することで、E. coliが完全独立栄養的に増殖可能になると考えました。
そのために、ギ酸デヒドロゲナーゼ、ルビスコ、ホスホリブロキナーゼをE. coliで異種発現しました。
そして、E. coliが元々有する2つの酵素をノックアウトし、CO2から炭素を獲得しやすくなるようにしました。
しかし、それだけでは完全独立栄養にはならなかったのです。
そこでポイントの2つ目です。
adaptive laboratory evolution (ALE) を行った
ALEとは、ある条件下で菌の継代を繰り返すことで、菌を適応進化させることを言います。
著者らは、古来の炭素源であったキシロースの量を徐々に減らすことで
E.coliを完全独立栄養にしました。
実に1年以上の継代を重ねた結果、
E. coliはCO2から全ての生合成を行い、尚且つ安定して増殖するようになりました。
CO2で生きるE. coliをつくったというのは、なんとも面白いですよね。
遺伝子工学や合成生物学にとって、ひとつの重要な成果であることには間違いなさそうです。
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